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シリーズ:住んでみてレポート

住んでみてレポート#004


この家に住んで、うれしかったことの一つは「窓」です。窓によって得られた開放感・眺望といった方が正確かもしれません。

密集した住宅地にあるため、低層階は周囲を家々に囲まれています。(上階では都心の夜景などを望めるのですが・・・) にもかかわらず、まったく圧迫感はありません。 それは、逆梁工法を採用することにより天井まで達する高さを確保した窓がついていることに加えて、敷地内の道路に面する南と東の2方向に空地をとって、建物と隣家との距離を十分に確保しているためです。

そして、低層階ならではの特典で窓から木々を見ることができます。掃き出し窓からは、空地に植栽したイロハモミジがバルコニー越しに見えます。こいつは私が事務所のメンバーと習志野の山奥で見いだした選ばれし一本でありまして、ちょっと愛着を感じています。冬であった竣工時は枝のみの状態でしたが、芽が出て新緑となり日々目を楽しませてくれます。秋になるのがとっても楽しみです。こういうことは賃貸の家賃評価にはあらわれないおまけのようなものですが、設計者としては空間の一部として大切にしていることでもあります。

引っ越した当初は、隣家の壁がツタで覆われていたのも美しかったのですが、残念ながら今は、ツタを撤去されたようです。住んでる方は大変なのでしょう。(W)


住んでみてレポート#003
バルコニーのこと

ようやく生活も落ち着いてきました。今回は部屋の間取りについて説明したいと思います。

まず、なんといってもこの部屋で最も特徴となっているのが「バルコニーイン」のプランであることです。一般的な集合住宅のように北側の玄関から住戸内へアプローチする構成とは逆に、南側のバルコニーから住戸内へとアプローチする構成になっているのです。そして、バルコニーに面して土間スペースとリビングスペースがあり、その奥にサニタリー・ベッドルームへとつながるプランとなっています。

このプランには、いくつかのメリットがあると考えています。

まずは、アプローチが南側のバルコニーからとなることによって、一般的な集合住宅に多く見られる単なる靴脱ぎ場としての玄関とは異なる、明るくて活動的なエントランス空間が生まれるということです。このアプローチ体験は今回の引越しで最も楽しみにしていたことの一つなのですが、朝明るい場所から外出したり、帰宅してドアを開けると、鉢植えや、リビングの温かな明かりなどが目に飛び込んでくるのは、かなり気持ちのいいものです。外出、帰宅という瞬間的な行為がもたらす心理的な影響の大きさを実感しています。この先もっとグリーンを増やして、ドアをあければ森 みたいな感じにしてみたいという気もしていますが、観葉植物をうまく育てられたことがないのでどうなることでしょうか。

また、バルコニーはエントランススペースとして機能するとともに、室内からの連続したアウターリビングとしても機能するということがあります。1つのスペースに機能を重ね合わせることにより、それらを別々に設けるよりも面積の効率化が図れ、居室をより広く確保できるというわけです。ちなみに、この住戸は各スペースを直接つなぎ合わせて廊下を無くすことでも効率化を図っています。

さらに、バルコニーやリビングスペースといった活動的な領域から、奥へと行くほど次第にサニタリーやベッドスペースといったプライバシー性の高い領域へと移行していくプラン構成とすることができ、Public/Private分離の明解なゾーニングが実現できました。玄関の位置を北から南へ反転させることにより可能となった合理的なゾーニングといえます。

設計者として、単身者やニ人暮らしの住まいについてまず考えたことは、都心だから仕方ないとあきらめかけていた住まいへのごくあたりまえの要求を満たしたいということ、閉ざされがちな都市生活の中で外部や自然を感じられる瞬間を少しでも取り戻したいということでした。

私の以前の住まいも、間口が約2.5mくらいと狭く、奥に細長い典型的な単身者用マンションで、玄関を入ってすぐサニタリーとDK、その奥に寝室として使う一部屋があり、その部屋に面してバルコニーが設置されているというプランでした。バルコニーには普段あまり出ることはなく、バルコニーに面した窓は家のなかで一番大きな窓であったにもかかわらず、寝室にあったためほとんどカーテンを閉じていました。その頃と比較すると、格段に心地よい生活を送ることができています。 (W)


住んでみてレポート#002
引越し

いよいよ迎えた引越しの日、朝から荷物を運び入れ、とりあえずの生活を送るための片付けをなんとか終えたころ、あたりはもう暗くなっていました。

少し落ち着いたところでこの部屋を見まわしてみると、これまで現場監理で何度となく見てきた部屋に自分の荷物が置かれている光景はとても不思議な感じで、なんだか少し落ち着かない感じがしました。

普通の引越しなら、自分のものが置かれていくにつれ、自分の居場所としての実感を徐々に強めていくのでしょうが、今回に限っては、いままで見慣れていた部屋のなかに自分のものを置くほどにその実感が薄れるという現象が起こったのです。

私にとっては、この建物への仕事を終えた終末感と新しい生活への創始感が入り混じっている上に、いままで別々のものとして見慣れていたものが急に一緒になり、一瞬混乱状態に陥ったからなのでしょう。今日からの生活で私はどんなふうに感じるのだろうか?とますます興味が沸いた瞬間でもありました。

この集合住宅はオール電化住宅なのですが、(この話題についてはまた別の機会にと思っています)オール電化、電気温水器については主人も私もはじめてで、私はいいところを見せようと、片付けの途中に、入居のときにどっさりと渡された取扱説明書の中から電気温水器の説明書を引っぱりだし、温水器をオンにし、お湯をつくりはじめておきました。

しばらくして、お風呂に入ろうとしたところ、シャワーからお湯が出ないではありませんか。いくら待てども水のまま・・・

部屋に戻り、何か間違っただろうかと取説を読み返してスイッチを切ってみたり。これまでの工事現場の様子が走馬灯のように頭のなかを巡りだし、温水器のカバーをはずして配管を確かめてみたりもしましたが、お湯はでてきません。結局、引越しの疲れからその日は眠ることに。

翌朝再度チャレンジしてみたものの、お湯がでてくる気配はありません。ようやく、これは温水器のせいではないかもしれないと思いはじめ、あらためて浴室をよく見てみると給湯ネジが絞ってあるだけでした・・・やっとの思いでお風呂に入れたときにはお昼近くとなっていました。

この部屋のことをよく知っていると思うだけに、難しく考えすぎてしまいました。主人からは白い目でみられ、これはいつか汚名返上せねば!

少々、力が入りすぎてしまった引越し初日でした。(W)


住んでみてレポート#001
プロローグ

4月某日
これまで設計を担当していた集合住宅の一室に引越しすることになりました。

その集合住宅は、都市に住む1〜2人暮らし層の生活、住まいの現状を見つめ直すといった企画にはじまり、設計、現場監理と2年以上を経て今年の3月に完成した集合住宅です。

建物が完成し、オープンハウスなども終えた後、その室に実際住んでみたらどんな感じだろうという話が持ち上がりました。自分が設計した家と言っても、自邸ではなく、不特定の人が住むことを考えて設計した賃貸集合住宅ですから、自ら一入居者として住んでみるということに、事務所の人々も私自身もとても興味を感じたのです。

通常ならば建物の引渡しが終わった後の様子は断片的にしか知ることができないことがほとんどですから、常に目をかけていられる、そして実際に使えるということは非常に有意義なことでもあります。

そこで、その日のうちに家に帰り、夫(わが家は現在共働きの2人暮らしです。いわゆるDINKS)に相談したところ、突然の話にいささか驚きが隠せないようでしたが、快く了解を得ることができました。

こうして自分が設計を担当した家(室)に住むというまたとない機会を得たというわけです。

このシリーズでは、生活のようす、反省点も含めて住んでみて感じたことなど、この体験生活のなかで起こることについてありのままに書いていきたいと思っています。(W)

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